GOTO-ONO Research Group
Department of Chemistry, School of Science
Institute of Science Tokyo
分子キャビティおよび分子カプセルを活用した
高反応性 化学種の安定化
高反応性中間体は、反応機構についての情報の宝庫であるばかりでなく、極限的な構造や反応性をもつ化学種として新規物性開拓のための良い指標となっています。これらは通常の条件では合成が困難であるばかりでなく、取り出すことが特に難しいことから、研究手法は分光学的観測などに限られてしまいます。一方、生体反応においては、通常であれば極めて短寿命の高反応性化学種が長い寿命をもち、中間体として重要な役割を果たしている場合が多くあります。これは、生体内では高反応性化学種が、タンパク質中に存在するキャビティ内部に埋め込まれ、失活が起こりにくいミクロ環境に置かれていることが大きな要因です。当研究室では、このような特質をもつミクロ環境をなるべくシンプルな人工分子で構築するために、酵素の活性部位と同様に反応点を内部に埋め込んだナノサイズのキャビティ型有機分子を独自に開発してきました。キャビティ型分子の内部に導入された高反応性化学種は、周縁部どうしの立体反発のためにお互いに近づくことができず、二量化などによる失活が効果的に抑制されます。一方で、他分子との反応空間は十分に確保されているので、基質に対する反応性は損なわれにくいという特長があります。目的に応じてオーダーメイドで設計した分子キャビティを活用することで、通常過渡的にしか生成できない種々の高反応性化学種を安定な化合物として合成・単離し、その構造および反応性を実験的に解明してきました。それにより、これまで紙上の仮説にとどまっていた想定反応機構を化学的に検証するだけでなく、生体内などの環境で高反応性化学種を検出するための標準データを提供しています。また、2 nm以上のサイズをもつ巨大なキャビティ型骨格を効率的に構築するための合成手法の開発も行っています。

分子キャビティの化学を三次元的に閉じた分子カプセルの化学へと展開し、カプセルの内部を官能基の反応空間として活用するという着想に基づいてランターン型分子を開発しました。そして、この内部空間を活用することで、一置換シンプルエノール(分子内水素結合など熱力学的な安定化を受けていないエノール)の合成・単離に初めて成功しています。その合成は、前駆体となるβ-ケトスルフィドユニットをカプセルの内壁に固定しておき、光照射により内部でエノールを発生させる手法により行いました。生成したシンプルエノールはシリカゲルクロマトグラフィーにより精製可能であり、結晶として単離することができます。さらに、このエノールはトリフルオロ酢酸存在下でさえケト化には室温・溶液中で3日を要しました。これは、「シンプルエノールは速やかにケト化し、純粋な形では得られない」という有機化学の常識を覆す結果といえます。

・Masuda, R.; Kuwano, S.; Goto, K. J. Org. Chem. 2021, 86, 14433-14443. 【Selected as Supplementary Cover】
・George, G. N.; Pickering, I. J.; Cotelesage, J. J. H.; Vogt, L. I.; Natalia V. Dolgova, N. V.; Regnier, N.; Sokaras, D.; Kroll, T.; Sneeden, E. Y.; Hackett, M. J.; Goto, K.; Block, E. Phosphorus, Sulfur Silicon Relat. Elem. 2019, 194, 618-623.
・Sase, S.; Goto, K. Phosphorus, Sulfur Silicon Relat. Elem. 2019, 194, 771-773.
・Sase, S.; Kimura, R.; Masuda, R.; Goto, K. New J. Chem. 2019, 43, 6830-6833. 【Selected as Front Cover】
・Block, E.; Dethier, B.; Bechand, B.; Cotelesage, J. J. H.; George, G. N.; Goto, K.; Rengifo, E. M.; Pickering, I. J.; Sheridan, R.; Sneeden, E.; Vogt, L. J. Agric. Food Chem. 2018, 66, 10193-10204.
・Sneeden, E.; Hackett, M.; Cotelesage, J.; Prince, R.; Barney, M.; Goto, K.; Block, E.; Pickering, I.; George, G. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 11519-11526.
・Sase, S.; Kakimoto, R.; Kimura, R.; Goto, K. Molecules 2015, 20, 21415-21420.
・Ishihara, M.; Abe, N.; Sase, S.; Goto, K. "Synthesis, Structure, and Reactivities of a Stable Primary-Alkyl-Substituted Sulfenic Acid" Chem. Lett. 2015, 44, 615-617.
・Sase, S.; Kakimoto, R.; Goto, K. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54 (3), 901-904. Angew. Chem. 2015, 127, 915-918. 【Selected as Inside Front Cover】
・Goto, K.; Sonoda, D.; Shimada, K.; Sase, S.; Kawashima, T. Angew. Chem., Int. Ed. 2010, 49, 545-547.
・Zhao, Y.-L.; Bartberger, M. D.; Goto, K.; Shimada, K.; Kawashima, T.; Houk, K. N. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 7964-7965.
・Shimada, K.; Goto, K.; Kawashima, T.; Takagi, N.; Choe, Y.-K.; Nagase, S. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 13238-13239.
・Watanabe, S.; Goto, K.; Kawashima, T.; Okazaki, R. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 3195-3196.
・Goto, K.; Holler, M.; Okazaki, R. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 1460-1461.